2017年7月17日月曜日

通貨発行益 2

 通貨発行益に関連する政策を考えるにあたり、まず通貨発行益の源泉となる貨幣発行の規模を把握しておかなければならない。
 平成28年の紙幣製造は14.87兆円(財務大臣が定めた平成28年日銀券の製造枚数による)、硬貨製造は0.16兆円(平成28年造幣局の年銘別貨幣製造枚数データによる)である。
 紙幣が貨幣全体の99%を占めているのに対し硬貨は全体の1%にすぎない。
 硬貨はたとえ製造原価との差額がただちに通貨発行益になるとしても全体に与える影響は限られる。したがって通貨発行益に関しては主に紙幣がその対象となる。
 通貨発行益に関連して、特に日銀による市中からの国債買いオペレーションについては最近特に否定的な論調が目立つ。通貨発行益そのものに懐疑的な見方をしている
 野口悠紀雄氏は、通貨発行益があるのだから貨幣は増発すればするほど政府の利益になるはずとの意見に真っ向から反論している。

 「日銀は、実際には、当座預金を増やすことによって国債を購入している。そして、超過準備に対しては、これまで金利がつけられてきた(日銀当座預金の残高は、17年4月末現在で約356兆円だが、法定準備預金は約19兆円だ。残りの337兆円が超過準備だ)。
 したがって、国債利子収入をうるためのコストはゼロではない。このコストを差し引いたものをシニョリッジと考えるべきだろう。
 ただし、これまでは付利するといっても0・1%であったので、国債の利回りよりも低かった。しかも、当座預金残高もさほど大きくなかった。
 このため、利払い費の総額はわずかだった。12年度においては、315億円だった。
 しかし、異次元緩和によって当座預金残高が増えたので、それに伴い、利払いも、13年度836億円、14年度1513億円、15年度2216億円と増えた。
 マイナス金利政策で減ったが、16年度で1873億円と、まだ大きい。
 ところが、金融緩和政策から脱却すると、先に述べたように、プラスの付利を復活させる必要がある。
 2%という日銀のインフレ目標が達成されたとすると、付利と国債利回りは逆ザヤになり、シニョリッジはマイナスになってしまうのだ。
 予想される損失は、日銀の自己資本(=引当金勘定+資本金+準備金)約7・6兆円をはるかに上回っている。したがって、日銀は、数十兆円の規模の債務超過に陥る。
 そうなると、日銀は政府への納付金を停止する。日銀納付金は税と同じようなものだから、これがゼロになるというのは、国民負担の増大だ。それにとどまらず、資本注入が必要になるかもしれない。
 しかし、これには強い反対があるだろう。また、中央銀行が債務超過になった事例はないので、どうしたらよいのかの目安もない。」(現代ビジネス2017.6.28野口悠紀雄氏寄稿『異次元緩和の先に、日銀が【巨額債務超過】に陥る可能性』から)


 野口氏はいますぐ金融緩和から脱却しなければ日銀が政府への納付金を納められず、あまつさえ債務超過になり資本注入が必要になるかもしれないと言っている。
 日銀法では、日銀が債務超過に陥った場合の規定がない。債務超過が想定されていない。

 この問題の論点は二つ。
政府と日銀の関係および日銀の債務超過。
 政府と日銀の関係は、親会社・子会社の関係にあることは既に述べた。親会社・子会社の関係であればバランスシートも一体となる。
 日銀の独立性は金融政策の独立性であって財務的に独立性があるわけではない。現に硬貨の発行益や国債の利子収入は政府へ上納されている。
 これとは逆に、仮に日銀が【巨額債務超過】に陥り資本注入が必要となれば政府による救済が考えられる。
 具体的には政府が増資して日銀の債務超過を解消する。親会社・子会社の関係で債務超過を補填する。
 政府による中央銀行の債務超過補填については見解が分かれる。これを問題視する意見と何ら問題ではないという見方である。
 通貨発行益に関連する政策は日銀債務超過問題に見られるように最終的には政府の財政と関係している。

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