トランプ旋風は白人ブルーカラーの不満に支えられている。
アメリカの既得権益に浴している人々は必死になってトランプ阻止に動いている。
これらエスタブリッシュメントは自らの利権を奪いかねないトランプ氏に危機感を抱いているからである。
なぜこのような構図になったのか。それにはアメリカ政治とその活動結果の税制にその答えの一端を見出すことができる。
前稿では格差を助長する相続税について言及したが、ここでは格差の原因ともなる所得税の推移に注目してみたい。
日・米・英の所得税(国税)の税率の推移
2015年1月現在 財務省ホームページから
上図でアメリカの所得税率の最高が1981年の70%から1984年以降50%以下と急激に低くなっている。
1981年共和党のレーガン大統領就任とほぼ軌を一にしている。この所得税率低下傾向は、2008年のリーマンショックまでつづいた。
この間の政策は小さな政府による大幅減税、軍事費拡大、規制緩和などいわゆるレーガノミクスであり、途中民主党政権をはさんでも基本的に変わることはなかった。
覇権国アメリカの政策は他の先進国にも影響を及ぼし、日英の所得税の推移も程度の差こそあれ同じような道を辿った。
2008年のリーマンショックを機に米国民、 特に白人ブルーカラー層の生活は一変した。
ヒスパニックなど非白人の大量移民で白人ブルーカラーの職は奪われ、またこれに追い討ちをかけるようにエスタブリッシュメントは、グローバル化をすすめ安い労働力を海外に求めた結果米国内の賃金を低下させた。
同時にエスタブリッシュメントは政治家に働きかけ所得税の最高税率を低く抑えることに成功した。
この格差拡大政策に対するウオール街のデモは記憶に新しいが、トランプ旋風も同じ流れでとらえることができる。
著名な投資家でオマハの賢人といわれるウオーレン・バフェットは ”自分の税率と秘書の税率が同じなのはおかしい” といった。
元米労働長官のロバート・ライシュは共和党エスタブリッシュメントへ公開書簡を送っている。その冒頭で皮肉たっぷりに曰く。
「君たちは、アメリカを代表する産業資本家であり、ウォール街の大立者であり、億万長者だ。何十年もの間、共和党の屋台骨を支えてきた。
君たちは、自分の莫大な財産をGOP(共和党の愛称。Grand Old Partyの略)に注ぎ込んだ。
目的は、節税と補助金。規制緩和と知的所有権の保護。市場シェアを上げて製品を値上げすること。労組を骨抜きにして移民を低賃金で働かせること。
住宅購入者や学生債務者には容赦なく自己責任を追及しながらも、自分の会社が破綻したときには公的資金で助けてもらうこと。
そして、自分たちのインサイダー取引を見逃してくれる裁判官を任命することだ。
君たちはあらゆる手を尽くして途方もない富を築いた。 おめでとう。」
(2016年3月ニューズウィーク日本版)
近年のアメリカの民主主義は金で買われた民主主義であると言われるが、この元米労働長官ライシュの指摘はその核心をついている。
アメリカの大統領選挙は、従来、共和、民主のいずれの党の候補にかかわらず、いかに巨額の資金を集められるかが勝敗の分かれ目であった。
今回も他の候補がウオール街やグローバル企業から巨額の資金援助を受けていることをトランプ氏は舌鋒鋭く批判している。
当のトランプ氏は資金援助を受けず、他候補にくらべれば選挙資金を殆んど使ってないに等しい。使う必要もない。メディアが勝手に報道してくれるからである。
この点もトランプ氏が支持される理由の一つとなっている。政治資金の援助をうけなければ誰からも拘束されることなく政策のフリーハンドを保てるからである。
トランプ氏の言動は外交や世界の安全保障上 幾多の問題がある。が、こと米国内政上の問題に限っていえばその目指すところは理にかなっている。米国の民主主義を取り戻すことに貢献するからである。
最終的に彼は共和党主流派によって抑え込まれるかもしれない。だが彼が創った政治の流れはいずれ誰かに引き継がれ結実するであろう。
さもなければ覇権国アメリカの落日は加速度的に早まるにちがいない。
トランプ氏を支持する白人ブルーカラーを中心としたアメリカ国民と共和党主流派に代表されるアメリカのエスタブリッシュメントのせめぎあい。
この戦いはこれまでのアメリカ大統領選挙の戦いと異なる。どちらが勝つか予想もつかない。
”トランプは怪物なのかもしれない。だが、共和党主流派こそが彼を生み出したフランケンシュタイン博士だ ”
と ヒラリー・クリントンを支持する特別政治活動委員会の戦略家、ポール・ベガラ氏はワシントン・ポスト紙でこう評した(産経ニュース)。
もしこのベガラ氏のたとえが物語の筋書きどおりすすめばその結末は共和党にもトランプ氏にも悲劇が訪れる。
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