その組織の機関紙 『フォーリン・アフェアーズ』 の編集長に弱冠27歳で抜擢されたインド出身のジャーナリスト ファリード・ザカリアが2008年に上梓したThe Post-Amerikan Worldがアメリカ社会に反響を呼んだ。
彼はその著書で世界は今、近年3度目のパラダイムシフト期を迎えつつあると言う。
1度目は15世紀に始まり18世紀に劇的に加速した科学・技術・産業などの近代化を成し遂げた西洋の台頭。
2度目は19世紀末からのローマ帝国以来 最強となったアメリカの台頭。
3度目は現在進行中でアメリカ以外のその他の国の台頭である。
彼は現在進行中の3度目のパラダイムシフトはアメリカの凋落ではなくアメリカ以外のその他の国の台頭である。
アメリカの絶対的強さの終焉であり、その意味でアメリカの時代が終わりを告げたといっている。
アメリカに絶対的な力がなくなったとはいえ相対的にはなお当分世界首位の座は揺るがない。
アメリカは、経済的・軍事的・技術的になお他を圧倒しているがその背景には教育・移民政策などがある。
特に移民はアメリカの秘密兵器である。
「すべての人種と民族と宗教信者が対立することなく、ともに暮らしともに働く国家を着々と築きあげている。(中略)
アメリカ生まれの白人層の出生率は、ヨーロッパ並に低い。アメリカが移民を受け入れていなければ、過去四半世紀のGDP成長率はヨーロッパと同水準になっていただろう。
イノベーションにおけるアメリカの優位性は、移民の産物と言っても過言ではない。
国内で勤務する科学研究者の50パーセントは、外国人学生もしくは移民であり、2006年には科学博士と工学博士の40パーセント、コンピューター科学博士の65パーセントが、外国人もしくは移民だった。
2010年には、ありとあらゆる分野の博士課程で、博士号取得者に占める外国人学生の割合が50パーセントを超え、科学の分野に限れば、75パーセントに近づくだろう。
シリコンヴァレーの新興企業のうち半数の創業者は、移民もしくは二世だ。
新たな生産性の爆発の可能性、ナノテクノロジーとバイオテクノロジーにおける優位性、未来を創造する能力・・・これらすべてが移民政策によって左右される。
アメリカの大学で教育した人々を、国内に引きとめられれば、イノベーションはアメリカで起こるだろう。
彼らを母国へ帰してしまえば、イノベーションも彼らとともに海を渡るだろう。」
(ファリード・ザカリア著楡井浩一訳徳間書店『アメリカ後の世界』)
イギリスの凋落の主な原因は 『不可逆的な経済の衰退』 であったが、これはアメリカには当て嵌まらないと言う。
「イギリスの場合、他を寄せつけない経済超大国の地位は数十年の寿命しかなかった。
しかしアメリカの場合は、すでに130年以上も続いている。
1880年代半ばから現在まで、アメリカ経済は世界一の座を維持してきた。
実際、世界の総GDPに占める割合は、驚くほど一定の水準で推移している。
1940年代と50年代は先進工業諸国が壊滅したため占有率は50パーセントにも達したが、これを除くと、世界経済に占めるアメリカ経済の割合は、100年以上の間、ほぼ四分の一の数字を保ってきた。
これからの20年間、占有率は下落する可能性が高いが、といって大幅な下落は考えにくい。
2025年の時点でも、アメリカの名目GDPは中国の二倍の水準を維持する、というのが大方の見方である(ただし、購買力平価で比較すると両者の差は縮まる)。」(前掲書)
しかしアメリカの場合は、すでに130年以上も続いている。
1880年代半ばから現在まで、アメリカ経済は世界一の座を維持してきた。
実際、世界の総GDPに占める割合は、驚くほど一定の水準で推移している。
1940年代と50年代は先進工業諸国が壊滅したため占有率は50パーセントにも達したが、これを除くと、世界経済に占めるアメリカ経済の割合は、100年以上の間、ほぼ四分の一の数字を保ってきた。
これからの20年間、占有率は下落する可能性が高いが、といって大幅な下落は考えにくい。
2025年の時点でも、アメリカの名目GDPは中国の二倍の水準を維持する、というのが大方の見方である(ただし、購買力平価で比較すると両者の差は縮まる)。」(前掲書)
ではなにがアメリカにとって問題なのか。それは、『機能不全に陥ったアメリカ政治』 だとファリード・ザカリアは言う。
「基本的に言うと、21世紀のアメリカは、経済が弱いわけでなも、社会が退廃しているわけでもない。
しかし、政治は深刻な機能不全に陥っている。
誕生から225年を迎え、過度に硬直化した時代遅れの政治システムは、金や、特殊権益や、扇情的なマスコミや、イデオロギー的な攻撃集団によって翻弄されてきた。
この結果、瑣末な問題をめぐって敵意むき出しの議論が繰り広げられ(政治の劇場化)、政治は実利を取ったり、妥協を成立させたり、計画を実行に移すことがほとんどできなくなってしまった。 ”なせばなる”の国は今や、”何もしない”政治プロセスを背負い、制度に命じられるまま、問題解決よりも党派争いに明け暮れている。
過去30年間で特殊権益、ロビー活動、利益誘導予算はいずれも増大した。アメリカの政治プロセスは以前と比較して格段に党利党略の度合いが強まり、格段に目標達成の効率が低下している。
反対反対と小賢しく立ちまわる政治家は、激しい党利党略を助長するだけでなく、党派を超えた尊い呼びかけを聞き逃す可能性が高い。
一部の政治学者は長きにわたり、アメリカの政党がヨーロッパ化すること ー すなわち純粋なイデオロギーをもち、原理原則を重んじることを望んできた。
この望みはようやくかなえられた(民主党でも共和党でも穏健な中道派は減少している)ものの、結果として、アメリカ政治は八方ふさがりの状態に陥っている。」(前掲書)
しかし、政治は深刻な機能不全に陥っている。
誕生から225年を迎え、過度に硬直化した時代遅れの政治システムは、金や、特殊権益や、扇情的なマスコミや、イデオロギー的な攻撃集団によって翻弄されてきた。
この結果、瑣末な問題をめぐって敵意むき出しの議論が繰り広げられ(政治の劇場化)、政治は実利を取ったり、妥協を成立させたり、計画を実行に移すことがほとんどできなくなってしまった。 ”なせばなる”の国は今や、”何もしない”政治プロセスを背負い、制度に命じられるまま、問題解決よりも党派争いに明け暮れている。
過去30年間で特殊権益、ロビー活動、利益誘導予算はいずれも増大した。アメリカの政治プロセスは以前と比較して格段に党利党略の度合いが強まり、格段に目標達成の効率が低下している。
反対反対と小賢しく立ちまわる政治家は、激しい党利党略を助長するだけでなく、党派を超えた尊い呼びかけを聞き逃す可能性が高い。
一部の政治学者は長きにわたり、アメリカの政党がヨーロッパ化すること ー すなわち純粋なイデオロギーをもち、原理原則を重んじることを望んできた。
この望みはようやくかなえられた(民主党でも共和党でも穏健な中道派は減少している)ものの、結果として、アメリカ政治は八方ふさがりの状態に陥っている。」(前掲書)
ファリード・ザカリアはイギリス帝国についでアメリカの一極支配に綻びが生じアメリカの時代は終わりを告げつつあると言っている。
これがため過去500年にわたり支配的であった西洋の文化・宗教・産業など西洋的価値観は見直され21世紀には全く別の価値観となるかもしれない。
そうなれば世界の政治的・文化的地図は大幅に塗り替えられることになる。
だが500年にもわたり西洋的価値観に染まりきっている現代のわれわれは、パラダイムシフトを俄かに信じられないし理解もできない。
「”(アメリカ以外の)その他の台頭”の意味を本当に理解したいなら、”その他”が休眠していた期間を正確に理解する必要がある。」(前掲書)
と言う。
しからばファリード・ザカリアが言う”その他の台頭”とはなにか、またその可能性や如何に。
このインド出身のアカデミックなジャーナリストの予測はアメリカで賛否両論を呼び話題になったという。
上梓から5年経過した今、彼の予測は少しも色褪せていないようだ。
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